2023/11/09
インプラントは欠損した歯の代わりに人工の歯根を埋めて土台をつくり、上にセラミック素材の被せものを装着した人工歯です。
そんなインプラント治療の歯磨きについて知っていますか。
この記事ではインプラントの歯磨きやメンテナンスについて分かりやすく解説します。
インプラント治療後は歯磨きが重要です。
インプラントはセラミック素材でつくられた人工の歯なので、虫歯になることはあり得ません。
しかし、インプラントの歯の治療を終えて安定期に入った後は、通常の歯と同様に歯磨きをしっかり行う必要があります。
なぜなら、歯根の代わりとしてインプラントの人工歯根が埋まっている周りには歯石や歯垢といった汚れがたまるからです。
細菌が繁殖すると、インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎といった歯周病に似た症状を引き起こしてしまいます。
インプラント周囲粘膜炎とは、インプラント周辺の粘膜が炎症を起こしている状態です。
インプラント周辺の歯茎が赤く腫れたり、歯磨きをすると歯茎から血が出たりといった症状が見られます。
そのまま放置していると、インプラント周囲炎へと進行していくので注意が必要です。
インプラント周囲炎とは、インプラント周囲粘膜炎よりも症状が重く、炎症が骨まで進行した状態です。
炎症が骨まで到達したことで骨に埋め込んだインプラントがグラグラと揺れます。
さらに進行が進むと、歯槽膿漏で歯が抜けてしまうようにインプラントが抜け落ちてしまうことがあるため、注意しましょう。
インプラントは人工歯なので、自分の歯と同じように歯磨きしてよいのか分からないと考えている方も少なくありません。
インプラントに使用する歯磨き粉は特定のものが必要なのか・向いているもの、向いていないものがあるのかについて解説します。
インプラントに使用する歯磨き粉は、市販のもので問題ありません。
歯科医院で販売している歯磨き粉も良いのですが、市販の歯磨き粉でも選び方に気を付ければ大丈夫です。
研磨剤が含まれている市販の歯磨き粉がインプラントに使用できるのかについて解説します。
歯の表面についた汚れが、研磨剤によって綺麗に取れると愛用している方も多いでしょう。
しかしインプラント治療後に使用する歯磨き粉として、研磨剤入りはおすすめできません。
インプラント治療後だけでなく、天然歯にとっても研磨剤入りの歯磨き粉はデメリットがあることが分かっています。
確かに汚れは研磨剤によってよく取れますが、削れた部分には汚れが付着しやすくなってしまうのです。
インプラントの場合も研磨剤でダメージを受けます。
さらに研磨剤がインプラントと歯茎の間に入り込んでしまい炎症を引き起こしてしまう可能性があるため、研磨剤入りの歯磨き粉は避けた方が良いでしょう。
研磨剤入りの歯磨き粉同様に問題となるのが、顆粒の入った歯磨き粉です。
顆粒入りの歯磨き粉には、研磨剤が含まれていることが多いのでおすすめできません。
歯科医院で販売している歯磨き粉なら、粒子の荒い研磨剤ではなく低研磨のものが多めです。
炭酸カルシウムやケイ素が含まれているものでなければ、あまり心配はないでしょう。
ご自身では判断が難しい場合は、歯科医院で相談してから使用すれば安心です。
しかし市販品をドラッグストア等で購入する際は、成分表示を確認するようにしてください。
薬剤師の方が常駐しているのなら、相談してみるのも良いでしょう。
虫歯予防のためにフッ素入りの歯磨き粉を使用している方も多いかもしれません。
フッ素入り歯磨き粉をインプラントに使った場合の懸念点として、フッ素がインプラントを侵食してしまう可能性が挙げられます。
しかしインプラントを腐食するフッ素の濃度は「1,500ppm以上」です。
日本で市販されている歯磨き粉に含まれているフッ素の濃度は「1,000~1,500ppm」なので、特に問題はありません。
フッ素には歯を初期の虫歯から守る効果があるといわれています。
歯質の強化に役立つので、天然歯にはフッ素入りの歯磨きの使用がおすすめです。
日本の歯磨き粉のフッ素の含有量ではインプラントへの心配はありませんが、気になる場合は歯科医院で相談してから使用してください。
インプラント治療後は、インプラントに悪い影響を与えない歯磨き粉を選ぶべきです。
研磨剤・顆粒の含まれていない歯磨き粉を選ぶようにしましょう。
選ぶのが難しい場合は、歯科医師や歯科衛生士に紹介してもらうと安心です。
歯磨き粉には大きく化粧品(ハミガキ類)と医薬部外品(薬用ハミガキ類)の2種類に分かれます。
歯磨き粉のパッケージや裏面等に記載されているので確認してみましょう。
なぜ歯磨き粉が化粧品になるのかと思う人もいるでしょう。
しかしスッキリとした爽快感が得られる香味成分や、歯の表面の汚れを落とす研磨剤・湿潤剤・発泡剤が基本成分となる歯磨き粉は、化粧品(ハミガキ類)に分類されます。
歯磨き粉には医薬部外品もあります。
医薬部外品(薬用ハミガキ類)とは、歯質を強化して虫歯を予防する効果が期待できるフッ素や、タバコのヤニを除去する効果の期待できるポリエチレングリコールなどの有効成分が添加されている歯磨き粉のことです。
成分表示をよく確認して、避けるべき成分が入っていないものを選ぶことが大切です。
歯磨きにあたって、インプラントとそれ以外の部分を分けるべきか疑問に感じている人も多いでしょう。
インプラントの部分以外の歯磨きと、インプラント部分の歯磨きとで分けて歯磨きする必要はありません。
インプラントの部分も、天然歯と同様に汚れを丁寧に取り除く必要があります。
インプラント治療は、一度の手術で治療が完了するわけではありません。
歯根を骨に埋める段階から人工歯を装着するまで段階を分けて、半年ほどの期間をかけて治療を進めていきます。
治療の段階ごとによって口の中の状態は異なるので、治療過程の歯磨きについて注意するべきポイントを解説します。
2回法と呼ばれる治療では、最初の手術でインプラント体をアゴの骨の中に埋め込み、そのまま歯肉を縫合して閉じます。
初回の手術が終わった段階では傷口のような状態なので、刺激を与えると悪化しかねません。
そのため手術直後からしばらくは、インプラントの部分はなるべく触れないように、うがいもやさしく済ませましょう。
インプラント体が定着するまでは人工歯を装着できません。
傷口から細菌が入り込んで炎症が起きることがないよう、柔らかい歯ブラシを使ってやさしく磨きましょう。
細菌が繁殖する原因となる歯垢は可能な限り取り除くことが重要なので、デンタルフロスなども使用することをおすすめします。
治療をした部分以外は通常の歯磨きで問題ありません。
初回の手術で埋入したインプラントが定着したら、2回目の手術を行います。
2回目の手術では、1回目の手術で縫合した歯肉を切開し、中にあるインプラントに人工歯を装着して歯として使える状態にします。
手術後は装着した人工歯も通常の歯と同じように歯磨きしてください。
ただし、手術直後からしばらくはデリケートで炎症ができやすいため、柔らかい歯ブラシでやさしく磨きましょう。
傷が落ち着いてきたら、少しずつ固めの歯ブラシに変えていきます。
傷口の治るスピードには個人差があるので、歯ブラシを変えるタイミングは歯科医師や歯科衛生士に相談して決めると安心です。
治療が完了し、インプラントの歯も通常の歯と同じように使えるようになったら、インプラント治療を行う以前と同様の歯磨きで問題ありません。
ただし、インプラントの部分以外の歯周病・インプラント周囲粘膜炎・インプラント周囲炎のリスクに備えて、丁寧なセルフケアが必要になります。
そのため、歯磨き粉と歯ブラシだけのケアではなく、デンタルフロスや歯間ブラシなどを使用しましょう。
可能な限り歯垢や歯石といった汚れをしっかり取り除けるよう、念入りなケアを取り入れてください。
しかし、どんなに念入りに歯磨きを行っても、セルフケアだけでインプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎を防ぐには限界があります。
治療の後も定期的に歯科医院に通院し、インプラントのメンテナンスを受けましょう。
メンテナンスでは、インプラント部分の状態を確認するだけでなく専用の器具を用いてクリーニングを行います。
普段の歯磨きでは行き届かない部分の汚れもキレイに取り除くことが可能です。
インプラント治療後のケアで心がけたいポイントを紹介します。
インプラントを装着したら、傷口が落ち着いてきた段階で歯ブラシの硬さを変えましょう。
歯ブラシの硬さは好みで選んで構いません。
ただし硬すぎる歯ブラシは歯や歯茎にダメージを与えてしまうことがあります。
それだけでなく、細かいところに毛先が行き届かなかったり、磨き残しができたりする可能性があるので、歯ブラシは「ふつう」の硬さがおすすめです。
インプラント治療後は、虫歯の心配はなくなります。
しかし歯周病やインプラント周囲炎などの感染症から守るため、日頃の歯磨きで汚れを取り除くことが重要です。
歯と歯茎の隙間・インプラントと歯茎の隙間の汚れ・細菌をきれいに取り除けるよう、歯ブラシの毛先は「極細」や「超極細」と表記されている歯ブラシを使用しましょう。
毛先の細い歯ブラシを使用することで歯周ポケットに汚れがたまらないよう念入りにケアできます。
歯磨き粉と歯ブラシだけで歯や歯茎、インプラントやその周りに付着する汚れを取り除くのは大変です。
インプラント治療以前は歯ブラシしか使用したことがなかった場合も、フロスや歯間ブラシ、タフトブラシ等のアイテムを取り入れて念入りにケアをしましょう。
使い方が良く分からない場合や歯磨きに自信がない場合は、歯科医院でブラッシング指導を依頼することをおすすめします。
インプラントのケアは自宅でのセルフケアだけでは難しいです。
治療後は、年に2回は歯科医院でのケアすることが推奨されています。
歯科医院での専門的なメンテナンスが必要な理由について解説しますので、確認してみてください。
インプラントの治療後には、歯科医院でその後のメンテナンスについて説明を受けるでしょう。
少なくとも最低2年間は経過観察のためにも通院が必要です。
通院ではインプラントだけでなく天然歯の状態も確認します。
特にインプラントは人工物なので、メンテナンスを怠ると脱落してしまうなど、何かの拍子でダメになってしまう可能性があります。
そういったトラブルを未然に防ぐには専門的な定期メンテナンスが必須です。
定期メンテナンスをきちんと受けることは、トラブルの早期発見につながります。
何かしらのトラブルが見つかっても、インプラントの製造メーカーが設けた保証期間内であればすぐに対応してもらえる可能性が高まります。
インプラントの製造メーカーが設けている保証期間はおよそ10年前後です。
ただし保証を受けるためには、故意による損傷や脱落ではないこと・定期メンテナンスを受けていることが必要です。
治療期間や費用もかかるインプラントを長持ちさせるために、専門的な定期メンテナンスを受けましょう。
インプラントの定期的なメンテナンスを受けるのは天然歯にとってもプラスです。
治療後に注意すべきインプラント周囲炎等の病気は、歯と歯の隙間や歯と歯茎の隙間に汚れが蓄積して、そこに住み着いた歯周病菌が原因となり発症します。
歯周病にかかるのを注意しなければならないのは、インプラントだけでなく天然歯も同じです。
また天然歯はインプラントと違って、虫歯も防がなくてはいけません。
インプラントのメンテナンスで日頃のケアでは行き届かない場所のクリーニングをすると、天然歯にとっても虫歯の原因となる歯垢や歯石を取り除ける良い機会なのです。
インプラントはしっかりセルフメンテナンスと専門的なケアを継続すると、耐用年数といわれている10年は使用できるでしょう。
過去には40年以上もインプラントを使うことができたという症例もあります。
メンテナンスによっては、一般的な寿命以上に使い続けられる可能性があるのです。
それには適切なケアを怠らないことが必須の条件になるといえるでしょう。
インプラントを長持ちさせるためには、歯磨きをはじめとした適切なメンテナンスが重要だとお分かりいただけたでしょう。
何らかの事情により、インプラント治療を行った歯科医院に通院できなくなったり、定期的なメンテナンスができなくなってしまったりした場合には、インプラント治療の取扱いがある歯科医院に相談してみることをおすすめします。
日々コツコツと歯磨きによるセルフケアを行い、専門的な定期メンテナンスとのダブルケアでインプラントを守っていきましょう。
監修:理事長/齋藤和重