2023/08/07
歯を失った場合に歯を補う治療法として近年注目されているのがインプラント治療です。
周りの歯に負担をかけずに歯の機能を回復する治療法で、審美性にも優れているなどのメリットもあります。
治療を検討している方は、インプラントに関する知識を身につけておく必要があるでしょう。
この記事では、インプラント治療に欠かせないアバットメントの役割について解説します。
アバットメントはインプラント体と上部構造を繋げるだけではありません。
どのようなものなのか、ぜひ内容をご覧ください。
インプラントの構造を説明します。
次の3つの部品から成り立っているのがインプラントです。
・インプラント体(人工歯根)
・被せ物(人工歯/上部構造)
・アバットメント
まず歯がなくなった部分の歯茎にインプラント体と呼ばれる人工歯根を埋め込み、アバットメントを装着します。
その上に被せ物(人工歯/上部構造)を被せるのがインプラント治療です。
インプラント治療におけるアバットメントは、歯の土台となるものです。
アバットメントは、インプラント体と上部構造を連結している部分を指します。
アバットメントは小さな部品で、治療後は外から見えません。
ですが、インプラント治療では非常に重要な役割を果たしているのです。
インプラントの術式には、「1回法」と「2回法」があります。
・1回法……外科手術を1回のみ行う治療法
・2回法……外科手術を2回に分けて行う治療法
そして、1回法で使われるインプラントには以下の2種類があります。
・1ピース型……インプラント体とアバットメントが一体型のもの
・2ピース型……インプラント体とアバットメントが分かれているもの
1ピース型ではインプラント体とアバットメントが一体となっているため、アバットメントがありません。
インプラントの1回法で選択できる1ピース型と2ピース型には、それぞれメリットとデメリットがあります。
メリット |
デメリット |
|
1ピース型 |
・手術回数が少ない ・身体への負担が少ない ・治療期間が短い ・ネジの緩みがない |
・骨の厚みによって適応できない ・1回法に限られる ・上部構造の形が限られる ・トラブル発生時は全撤去になる |
2ピース型 |
・適応症例が幅広い ・1回法と2回法どちらにも対応できる ・上部構造の選択肢が広い ・ダメージのリスクが少ない |
・手術回数が多い ・身体への負担が大きくなる ・コストがかかる ・治療期間が長くなる ・ネジが緩む恐れがある |
どちらが優れているということはありませんが、それぞれの特徴を理解して自身に合った治療法を選択しましょう。
インプラント体とアバットメントはスクリュー(ネジ)を使用して締結します。
まず行うのが、歯がなくなった部分の歯茎へのインプラント体の埋め込みです。
そこに、歯の土台となるアバットメントを装着します。
そのアバットメントに上部構造を被せ、スクリューで固定したら治療が終了です。
インプラント治療ではアバットメントは欠かせません。
では、アバットメントによってどのような効果があるのでしょうか。
インプラント治療におけるアバットメントの役割は以下の通りです。
・上部構造とインプラント体を連結させる
・インプラントの強度を補強する
・インプラントを目立ちにくくする
・噛む方向を補正する
・上部構造を保護する
順番に詳しく解説していきます。
アバットメントが持つ最も重要な役割は、上部構造とインプラント体を連結させることです。
インプラント体、そしてアバットメントはそれぞれネジで固定されています。
このネジの締め具合によって上部構造との距離を細やかに調整するのです。
もし上部構造が破損したら、その部分だけを交換すれば良いため治療が簡単に済むでしょう。
アバットメントにはインプラント自体の強度を高める役割も担っています。
インプラント体と上部構造の間にあるアバットメントが、クッション効果をもたらすのです。
これにより、インプラント体に直接のダメージがかからないようにし、強い力がかかっても破損しないように働きます。
インプラントを目立ちにくくするのも、アバットメントの役割です。
基本的にインプラント体は、外からは見えません。
ところが何らかのトラブルが起きたときにインプラント体が露出して、審美性に欠けてしまう場合があります。
しかしアバットメントがあると、インプラント体を隠して目立たなくできるのです。
万が一に露出した事態に備えて、アバットメントの素材は審美性に配慮した選択もできます。
アバットメントは、上部構造の角度を補正する役割も持っています。
インプラント体は顎の骨に埋入しますが、角度調整が難しく、骨の状態によっては真っ直ぐに埋め込めない場合があるのです。
インプラント体が斜めに埋め込まれると上部構造も傾き、噛み合わせが悪くなります。
しかしアバットメントで傾きを補正できるため、理想的な角度で上部構造を被せられるでしょう。
アバットメントには、インプラント体だけでなく上部構造を保護する役割もあります。
インプラント体が傾いた状態で埋入してしまっても、角度のついたアバットメントを取り付けると、適切な角度で噛めるようになるのです。
これにより、ものを強く噛んだ場合でも上部構造が破損するのを防ぐことができます。
インプラントに使われるアバットメントの材質は、大きく分けて以下の5つです。
・純チタン
・チタン合金
・金合金
・ジルコニア
どの素材が使われるかは歯科医師の判断、もしくは相談の結果で使い分けられます。
それぞれの素材の特徴を説明しますので、ご覧ください。
純チタンアバットメントは、99%チタンでできているアバットメントです。
生体親和性が高く馴染みやすいのがメリットですが、チタン合金に比べると強度が高くありません。
審美性も高くないため、インプラント治療においてはほとんど使われない素材です。
チタン合金アバットメントは、チタンをベースにアルミニウムなどを組み合わせた合金のアバットメントです。
生体親和性が高く馴染みやすいため、インプラント治療ではよく使われる素材となります。
ただし、金属でできているため、外から見た際の審美性は低いです。
また、加工が純チタンに比べて難しいため、コストがかかるなどのデメリットがあります。
金合金アバットメントは、金などを用いた合金で作られているアバットメントです。
適度な硬さがあるためインプラント体と適合しやすいと言われています。
しかし金合金だと金属部が見えてしまうかもしれません。
強度に優れるぶんコストが高くなる可能性があります。
ジルコニアアバットメントは、人工的に生成された石であるジルコニアでできたアバットメントです。
この素材は金属を一切使用しないため、金属アレルギーの方でも安心して使用できます。
他の金属素材と違って審美性が高く、見た目は自然です。
インプラント治療に欠かせないのがアバットメントです。
ですが、一度連結させれば一生使えるというものではありません。
アバットメントで起こり得るトラブルについて詳しく説明しますので、ぜひチェックしてみてください。
アバットメントでは嚙み合わせに問題が生じる可能性があります。
アバットメントは、ネジの締め具合によって噛み合わせを細かく調整するものです。
しかし噛み合わせが悪い状態で上部構造を装着してしまうと、食べるのはもちろん、発音にも問題が生じます。
噛み合わせに問題があると感じた場合、早めに歯科医院に相談して調整してもらう必要があるでしょう。
インプラントを使い続けていると、アバットメントが緩んで痛みを感じる場合があります。
これは、アバットメントが緩んでしまったために、顎の骨に負担がかかってしまっている可能性が高いです。
顎の骨に負担がかかっていると噛み合わせがどんどん悪くなったり、インプラント体や上部構造にまで大きなダメージを受けてしまったりします。
痛みを感じる場合は早めに歯科医院を受診しましょう。
アバットメントはインプラント自体の強度を強くし、快適にインプラントを使うために重要な役割を果たします。
ですが、治療後の扱い方によっては、インプラントの寿命を縮めてしまうのです。
インプラントを長持ちさせるためのポイントを紹介するので確認しておきましょう。
インプラントを長持ちさせるには、日々のブラッシングを丁寧に行いましょう。
治療後の歯を健康に保つためには、毎日のセルフケアを怠ってはなりません。
治療後に発症する恐れがあるのは「インプラント周囲炎」という炎症です。
インプラント周囲炎は、歯磨きで落としきれなかった歯垢が溜まって起こるので、丁寧なブラッシングを徹底するとリスクが軽減されます。
歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシなどの補助清掃用具を使用すると、磨き残しを減らせるでしょう。
歯科医院での定期的なメンテナンスも、インプラントを長持ちさせるのに大切です。
セルフケアはもちろん大事ですが、歯ブラシでは届きにくい汚れもあります。
定期検診を行えば、インプラントやその周辺に異常や噛み合わせの問題はないかなどを詳しく調べてもらうことが可能です。
さらに専用の器具で歯をクリーニングしてもらえるので、歯ブラシでは届きにくい部分の汚れ・歯石・歯垢・着色汚れなどを落とせます。
インプラントの寿命を延ばすためには、口腔内の健康を保つ必要があります。
しかし喫煙をしている場合、歯肉の血流を悪化させて歯周病のリスクが高まり、寿命が短くなりやすい傾向にあるのです。
また、骨とインプラントがしっかり結合しなくなり、手術が失敗する可能性もあります。
せっかく埋め込んだインプラントを守るためにも、禁煙や喫煙回数を減らすなどの対策が望ましいでしょう。
インプラントは衝撃を与えられると破損してしまいますので、歯ぎしりや食いしばりなどの癖は改善しましょう。
どんなに強度が高い素材を使用しても、ダメージを100%回避するのは困難です。
歯ぎしりや食いしばりの癖がある場合、直接的な負荷がかかってしまいます。
インプラントの破損やインプラント周囲炎を引き起こすリスクが高まるので、就寝時はナイトガードを使うなどの対策が必要です。
インプラント治療を長持ちさせるには、必ず信頼できる歯科医院を選びましょう。
インプラント治療は、虫歯や歯周病治療などに比べると非常に専門性が高い治療です。
治療結果は医師によって差が出ると言っても過言ではありません。
インプラント失敗とならないためには、信頼できる歯科医院選びが必要になります。
カウンセリングを受けたり、実際に治療を受けた人の口コミを参考にしたりするのがおすすめです。
違和感があったらすぐに歯科医院を受診するのも、インプラント治療では大切です。
口腔内のトラブルは早期発見・早期治療が重要です。
インプラント周囲炎は自覚症状がないケースも多く見られます。
インプラントの再手術となると費用が高額になる可能性が高いので、違和感があったら早めに歯科医院を受診しましょう。
この記事では、インプラント治療におけるアバットメントの役割について解説しました。
アバットメントには次のような役割があります。
・上部構造とインプラント体を連結させる
・インプラントの強度を補強する
・インプラントを目立ちにくくする
・噛む方向を補正する
・上部構造を保護する
アバットメントという小さな部品でも、インプラント治療において重要な役割を担っているのです。
こうした知識を頭に入れておけば、インプラント治療を受ける際、医師の説明がスムーズに理解できるでしょう。
インプラント治療は基本的に自由診療となり、費用が高額になるケースが多いです。
少しでも長く使うために、メンテナンスを怠らないようにしましょう。
監修:理事長/齋藤和重